論考 / 燃料・再エネ投資
米中間選挙の結果で変わる
原油と再エネ投資
2026年10月12日時点
日本の電力小売と発電の経営・需給・料金・リスク責任者に向けて
目次
11月3日の米中間選挙について、本稿は、結果の差が短期の原油価格より再エネの投資条件に強く表れるとみる。共和党が両院を維持すれば、国内の石油・ガス開発と再エネ支援の選別が続く。民主党が一院を奪還すれば、新たな法律による支援の追加縮小に歯止めがかかり、両院を奪還すれば、支援を部分的に戻す交渉が強まる。[1]
原油は、中東の出荷制約が続く今冬は危機前より高い水準が残るが、出荷回復が続けば足元から徐々に緩むという見通しを基本に置く。米国の増産政策は、その先の価格を抑える要因になる。日本の事業者は今冬の調達を確保しながら、選挙結果に応じて再エネ案件の優先順位と発注時期を変えるべきである。
表は左右にスクロールできます
| 議会構成 | 原油の見通し | 再エネの見通し | 日本で優先する判断 |
|---|---|---|---|
| 共和党が 両院を維持 |
国内開発の継続・追加促進。実際の供給増が中期の価格を抑える方向に働く | 支援を縮小した現行制度が続き、採算と期限による投資選別が進む | 現行制度で採算の合う案件と、支援期限に間に合う機器枠を優先 |
| 民主党が 一院を奪還 |
既存の開発策は続くが、追加の優遇策は議会との交渉型になる | 新法による追加縮小は進みにくくなる。既存の縮小は残り、期限・対象の修正交渉へ | 現行条件で進む案件を維持し、制度修正待ちの案件を再評価 |
| 民主党が 両院を奪還 |
追加の開発優遇への修正圧力が強まり、外交・制裁を巡る交渉も増える | 部分修正の交渉が最も強まる。全面復活より、対象・期限の限定的な見直しを想定 | 支援修正時の出資・発注候補を準備し、成立した条件で実行 |
表は10月12日時点の本稿の見立て。原油の短期見通しには、中東からの出荷が段階的に回復する共通の前提を置く。政策の根拠は本文で示す。
今回の選挙で大統領は交代しない。民主党の一院奪還は、下院なら法律・予算、上院ならそれに人事承認の交渉を加える。両院を得ても大統領の拒否権は残る。新議会は2027年1月3日に始まり、既存法に基づく行政の実施は続く。[7,9,21]
価格高騰の影響は秋の料金と契約条件にも残る
ホルムズ海峡の通航障害後、原油と日本卸電力取引所(JEPX)の価格は上昇し、秋も高い水準にある。JEPXの10月1〜12日平均も18.05円/kWhと、障害発生前の4週間を上回る。[2]
表は左右にスクロールできます
| 比較期間 2026年 | Brent原油 ドル/バレル |
JEPXシステム 円/kWh |
|---|---|---|
| 事前4週 1月31日〜2月27日 | 70.89 | 10.61 |
| 事後8週 3月2日〜4月26日 | 108.81 | 13.48 |
| 9月平均 | 114.16 | 19.12 |
出所:米エネルギー情報局(EIA)・JEPXを独自集計。Brentは原油の国際指標で、公表日次現物価格の単純平均。JEPXは税抜・受渡日別30分枠の単純平均で、10月12日当日の受渡予定を含む既約定値。事前・事後比較では2月28日〜3月1日を移行期間として除外。他の出来事や季節性を統制した因果効果の推定ではない。[10,2,11,5]
東京ガスは調達価格の高騰を考慮し、3月6日から企業向け高圧・特別高圧の新規受付を停止した。U-NEXTグループも3月7日以降、高圧固定料金メニューの新規受付を停止した。[27,6]
10月1日には、同グループのU-POWERが関東・中部向けに独自燃料費等調整付きの新商品を始めた。東京ガスの低圧電力(東京電力エリア)では、政府支援を除く燃料費調整単価が9月から10月に0.66円/kWh(税込)上昇した。春の受付制限に続き、秋も燃料費の負担増と販売条件の見直しが続いている。[3,28,29]
1 原油は今冬の出荷回復と中期の増産を分けて読む
今冬は高値が残り、出荷回復とともに緩むのが基本線
原油の中心シナリオは、どの議会構成でも中東からの出荷回復に左右される。EIAの10月見通しも、輸送・生産の制約が残る一方、回復が進めば油価は10月初旬から徐々に低下し、2027年に改善すると予測する。選挙で米国の開発方針が変わっても、今冬に使える供給量への効果は限られる。[30]
ホルムズ海峡では、6月後半に通航が部分回復した後、7月7〜8日に再び状況が悪化した。価格低下を調達計画へ織り込むには、合意後も出荷量と到着予定の改善が続くことを確認したい。[12,13,14]
ロシア産軽油の輸入許可も、燃料価格を下げるための制裁緩和という点で、この原油の見通しに関わる。米財務省は10月9日、米国への輸入を含むロシア産軽油の販売・輸送・輸入等について、対象制裁上の取引を2027年4月7日午前0時1分米東部夏時間まで認めた。実輸入の完了は本稿では確認していない。[23]
11日には共和・民主両党の上院議員が、法との整合性や議会への説明を問題視し、撤回を求めた。許可が続き、世界全体で市場に回る供給が純増すれば、まず軽油の不足を和らげる効果が期待できる。議会結果に加え、許可の継続と仕向け地の振替を除く追加出荷を見たい。[24,25]
共和党両院なら、米国の供給拡大に追い風が続く
共和党が両院を維持すれば、国内開発の継続性が最も高く、追加の予算や優遇策もまとめやすい。既に米政府は、2025年成立法に基づき石油・ガス開発権の入札を増やしている。新たな投資と稼働が進めば、中期の世界供給を増やし、油価を抑える方向に働く。[22]
日本の事業者は、共和党の勝利を受けて先々の原価改善余地を点検しつつ、今冬の契約には実際に確保できる量と価格を使う。追加供給を織り込む時期は、企業の投資決定と生産開始の予定で決める。制裁強化や輸送障害が続けば、増産の効果は相殺される。
民主党が勝てば、追加の開発優遇は交渉型になる
民主党が一院を得れば、新法や予算を必要とする追加の開発優遇は進みにくくなる。両院を得れば修正要求をそろえやすくなり、送電整備や需要家の負担軽減を組み合わせた妥協が政策実現の中心になるとみる。既存法による開発は続くため、日本の調達計画では既存案件の増産を基準とし、未成立の追加策による供給増は慎重に扱う。
どの結果でも、日本の電力への主な経路は、供給障害が原油と液化天然ガス(LNG)を同時に動かす経路と、原油連動のLNG契約を通じて燃料費が遅れて変わる経路である。JEPXには国内需給も効くため、契約の価格式と参照期間に沿って原価へ直す。[15,4,5]
顧客には固定料金で売り、仕入れは卸市場に頼る小売は、確保できる価格と期間で新規見積りを更新する。燃料費や市場価格を料金に反映する小売は反映月を、火力発電は燃料費と売電価格が変わる月を照合する。燃料調達・需給・料金部門は、為替も反映した月別原価表で判断をそろえたい。
2 再エネは共和党なら現行制度、民主党なら部分修正へ
共和党両院なら、現行の支援条件で投資選別が進む
共和党が両院を維持する場合、支援を縮小した現行制度が続き、採算と期限による案件の選別が進むとみる。現行法では、対象の風力・太陽光への税額控除、つまり税負担を減らす支援が縮小された。着工時期によっては2027年末までの稼働が必要であり、期限前の発注集中が見込まれる。蓄電池には別の適用条件があり、部材の供給元も支援の可否を左右する。[17,16]
米国で開発・出資する日本企業は、現行の税制、部材条件、送電線への接続、納期で採算を確認し、期限に間に合う案件を優先したい。日本国内の開発案件でも、米国向けの駆け込み発注が重なる機器の供給枠を早めに確認したい。
民主党一院なら追加縮小に歯止め、両院なら修正交渉が強まる
民主党が一院を奪還すれば、新たな法律による再エネ支援の追加縮小は進みにくくなる。下院では予算・税制、上院ではそれに人事承認を通じた交渉が加わる。既存の支援縮小が直ちに戻るわけではないが、対象技術や期限の部分修正を交渉に載せる機会は増える。
民主党が両院を得れば、その修正圧力は最も強まる。民主党議員らは既に支援の復活を提案しており、選挙後は両院で要求をそろえやすくなる。ただし大統領の拒否権が残るため、中心シナリオは全面復活より、対象や期限を絞った部分修正の交渉である。[18,26,9]
日本企業の動き方も変わる。一院奪還なら、現行条件で進む案件を維持しつつ、制度修正待ちの案件を再評価する。両院奪還なら、修正が成立した際に動かす出資・発注候補の準備を早める。投資決裁の基礎収益には現行制度を使い、復活が提案されている支援は成立後に反映する。
超党派の建設促進は、どの結果でも投資を動かし得る
両党は、料金負担の軽減と安定供給を目指す手段では異なるが、設備を建てる共通基盤で協調できる。9月30日の超党派の許認可・送電改革案は、審査の見通しを立てやすくする措置と、大口需要に伴う送電費用の負担を組み合わせた。建設許可と接続の遅れが減れば、支援総額の増額を待たずに動く案件が増える。[8]
まず年内の成立が焦点になり、未成立なら新議会での再提出が必要になる。分割議会では、このように両党の目的が重なる案が前進しやすい経路になるとみる。開発部門は、自社案件の許可・接続日程を短縮する規定が入るかを確認したい。[20]
日本国内への波及は、米国の機器発注で見極める
米国に投資する日本企業には税制が直接効き、日本国内の案件には米国の発注量を通じて影響が届く。共和党両院なら支援期限前の発注集中、民主党が勝てば制度修正が成立した後の追加発注が、機器の価格・納期を動かす要因になる。中期には生産能力の増強も進み得るため、調達部門は正式見積りと生産枠で発注時期を決める。[19]
小売や需要家は、再エネのPPA(発電事業者と結ぶ長期の電力購入契約)や自家消費設備を、燃料価格への依存を減らす手段として評価できる。発電と需要が合わない時間帯の購入費まで含め、実際に使える電力で比較したい。油価が緩む局面でも、長期の燃料価格変動を抑える価値は残る。
選挙結果ごとに、先に動く判断を変える
共和党両院なら、現行条件で採算の合う再エネ案件を選び、米国の供給増を実績に沿って調達計画へ反映する。民主党一院なら追加縮小への歯止めと部分修正の交渉を、両院なら修正が成立する条件を見極め、再開候補を準備する。
原油の見通しを変えるのは継続した出荷回復であり、再エネの投資判断を変えるのは成立した支援・建設条件と実際の発注である。選挙後は結果に対応する中心シナリオを採用し、この二つの事実で見通しを更新していきたい。
出典
資料名をクリックすると一次資料または明示した報道を開ける。動的ページの確認基準日は2026年10月12日。日付は公表日で、適用日・受渡日とは区別している。
- [1] FEC 2026年一般選挙日程
- [2] JEPX スポット市場取引結果 年度別CSV
- [3] U POWER 高圧電力の新プランを開始 2026年10月1日
- [4] 資源エネルギー庁 燃料費調整制度
- [5] JEPX 取引規程
- [6] U NEXT HOLDINGS 2026年8月期第2四半期決算説明資料 4月13日
- [7] 米国立公文書館 憲法に関する問答
- [8] 米上院EPW委員会 超党派許認可改革案の発表 2026年9月30日
- [9] 米上院 立法手続と採決
- [10] 米EIA Brent原油現物FOB 日次履歴
- [11] 米中央軍 攻撃開始の公式発信 2026年2月28日
- [12] IMO 米イラン合意への声明 2026年6月15日
- [13] IMO ホルムズ海峡での再攻撃への声明 2026年7月8日
- [14] IMO ホルムズ海峡の過去月別通航データ
- [15] 資源エネルギー庁 エネルギー動向 2025年6月 LNGの価格方式
- [16] 米財務省 IRS エネルギー税額控除と禁止外国主体の資材支援に関する指針 2026年2月
- [17] 米IRS Internal Revenue Bulletin 2025年36号
- [18] 米下院 H R 7977 Energy Bills Relief Act 提出版 2026年3月
- [19] 米DOE 電力設備サプライチェーンの強化 2026年8月10日
- [20] 米議会調査局 議会会期末の立法措置 R48533
- [21] 米上院 大統領指名人事の承認権
- [22] 米BLM 石油 天然ガスリース制度の実施指針 2026年5月
- [23] 米OFAC ロシア原産軽油に関する一般許可135 2026年10月9日
- [24] 米上院超党派議員 ロシア産軽油輸入への反対声明 2026年10月11日
- [25] 米EIA 軽油価格の構成要因 2026年9月18日
- [26] 米下院Tonko議員ら エネルギー負担軽減法案の発表 2026年3月18日
- [27] 共同通信 東京ガスとENEOSの企業向け新規受付停止 2026年4月3日
- [28] 東京ガス 2026年9月分の燃料費調整
- [29] 東京ガス 2026年10月分の燃料費調整
- [30] 米EIA 短期エネルギー見通し 2026年10月版(10/6公表、10/1前提)